地元の住み心地は、地元の主に訊くのが一番!穏やかな心を持ちながら、激しい地元愛によって目覚めた名古屋最強の伝承者。それが〝超ナゴヤ人〟だ!
『伝説の超ナゴヤ人に訊く』第9回は【昭和区瑞穂区桜山】です。
『トップフルーツ八百文』社長 鈴木和子さん
今回お話を伺ったのは、「桜山」駅から東へ10分ほど歩いたところにある老舗の果物屋さん。
旬のフルーツから高級フルーツまで扱う『トップフルーツ八百文』社長 鈴木和子さんにお話を伺いました。
フルーツをそのままミキサーにかけたフルーツジュースやフルーツサンドも人気です。
「クラウンメロン親善大使」という垂れ幕も気になります。。。
フルーツ一筋、55年。
ー果物屋を始められたのはどんなきっかけなのでしょうか?
この店に移ってからは20年くらいですが、前は1区画向こうの菊園町にお店がありました。この仕事に従事してから55年になります。
出身は静岡なんですが、事情があって中学卒業後にすぐ果物屋に修行に入ったんです。
昭和40年代、双子の弟たちの学費を稼ぐためでした。上の兄たちも優秀でしたが夜学に通いながら兄弟の面倒を見て、そんな時代でしたね。
お店に寝泊まりして朝から晩まで働きました。昔は16歳で免許が取れたんですよ。それで軽四に乗って朝市場まで行っていました。
ー私がトップフルーツ八百文さんを知ったきっかけは友達に「すごくいいモーニングがあるよ!」と教えてもらったからなんです。フルーツだけでなく、フルーツジュースが八百文さんの代名詞のような商品ですよね。
そうですね。
モーニングはね、フルーツを朝食べる習慣をつけてもらいたくて始めたんです。
「朝食べるフルーツは金メダル」というスローガンでやっていました。大赤字の出血大サービスでしたね。でもお客さんは結局フルーツを買って行ってくれたりもしました。
ただ、いつも行列や渋滞がすごくて近隣住民の方にご迷惑をかけてしまっていたんです。コロナ禍で密になってはいけないということもあったので、思い切ってやめることにしました。モーニングができなくなったので、その代わりにフルーツジュースはかなり値引きしました。フルーツジュースは独立してからスタートして、もう30年以上。
かなりこだわりをもって作っています。一番のこだわりは「余分なものは何も入れない」ということです。
だから、水も氷も甘味も一切足していません。「そのまま」ミキサーにかけることで、果肉の栄養をしっかり摂ることができます。
果肉が入るとペクチンが摂れるのでお腹の調子をすごく整えてくれるんです。
この辺りの方は子供の頃から飲んでいただいているので、引っ越しても来てくださるんです。「他所にはない味だから」と言っていただけます。フルーツサンドは今すごく流行っていますが、流行る前からずっとやっている商品です。
ジュースだけでなく、サンドイッチもパフェも、余分なものは何も入れません。自分が家庭の主婦であり、母親でもありましたから、家族の食生活と健康を第一に考えますよね。そのことは商品作りにも影響していますね。
働く女性として、母として
ー子育てをしながら開業されたんですよね。
修行を終えて自分で開業したのは33歳のとき。
結婚して、子供を2人育てていた頃でした。下の子が2歳くらいでしたね。夫は全く別の仕事で豊田市に通勤していたので、今でいう「ワンオペ」ですよね。
本当にてんやわんやでした。夜のうちの朝ご飯の支度をやっておいて、朝早くから子供達を連れて仕入れのために朝市の競売に行くんです。競売が終わったら家に戻って、着替えやおしめやらを保育園の支度をして、そこから保育園に向かいました。
でもね、メロンの競売が8時45分からなんですよ。すると保育園に着くのが9時20分くらいになっちゃうの。それでよく主任の先生に怒られていましたね(笑)「9時に入ってください!」ってね。
タイムスケジュールが常にパツパツの中で子供を育ててきました。
臨月の時はお腹がハンドルに当たりそうになるし、スイカの競売では「腹の中に隠しとくな!」なんて言われてましたよ(笑)
ー当時は市場で競売をする女性は珍しかったんじゃないでしょうか?
そうですね。まず中央市場に女性トイレがなかったんですよ。
私が婦人部連合会を作って最初にやったことは、女性トイレを作ることでした。あとは、当時とても汚かったトイレをきれいにすることにもこだわりました。
今は市場で働く女性がすごく増えましたね。それまでは、市場で働く女性といえば「男らしい女の人」というイメージでした。
ボーイッシュというか。でも私はこうしてピンクの服を着ていますし、女性らしさも大事にしたいと思っているから、女性が市場に増えてくれたことは嬉しいですね。
芯の強さに男も女も関係ないわよね。自分は自分です。
当時は「女なんだから」と馬鹿にされたりしたこともありましたが、「目利き」は技術なので、努力して積み上げたものは絶対に自分を裏切りません。
きちんと信念を持って働いているかどうかだと思います。
ーかっこいいです。社長の姿に憧れて後に続く女性が増えたのは素晴らしいことですね。社長が考えられる「信念」とはなんでしょうか。
実家が農家だったのもあるし、子供の頃から母が日常的に旬のフルーツや野菜を食べさせてくれたんですよ。お茶やお米、とうもろこしやトマトなどを育てていましたし、苺、蜜柑、葡萄や桃、柿、さくらんぼの木もありました。
日常的に旬のフルーツが身近な環境にあったのは今の仕事に繋がっていると思います。
今考えればとても贅沢なことですよね。
そういう食生活をみなさんに伝えたいという思いがあります。「命と健康を守る食生活の改善」というテーマで婦人部連合会を立ち上げて、「食育のヒューマンネットワーク」を作りました。
「余計なものはいらない」をコンセプトに生産者との関わりへ
ー果物を販売するだけでなく、アドバイザーとして生産者へアプローチされることもあるそうですね。
そうですね。農業においても、「余計なものはいらない」がコンセプトなんです。
母親として子供の食事と向き合いながら市場に出回る食べ物を見てきて、環境を汚染する農業はやめたいと思ってずっと活動してきました。
名古屋大学の大学院の教授と一緒に農水省のアドバイザーや委員もさせていただきました。環境を汚染しないためには土づくりから進めたいということで、県の農政科の方々にも指導させていただいたり。水を改善したり、低農薬の果物づくりを進めています。
ミミズの這うような土づくりを行う苺農家をバックアップしたり、持続可能な農業にするために後継者を作ることは重要な支援です。
例えば、蒲郡の高齢化で消毒や剪定ができなくなった蜜柑農家に、何度も講師で呼ばれています。農家の悩みに対して、ジャバラという花粉症やアレルギーにいい蜜柑を接木して作るように提案させてもらいました。
そうすると消毒や剪定がいらないので、下草刈りと収穫の時期にアルバイトさんを雇うことで高齢化しても食べていけるんですね。
ー果物屋さんの社長さんというイメージを大きく飛び越えて、さながら農家の経営コンサルタントですね。他にそのような活動をされている方はいるのでしょうか?
いないですね(笑)ゼロだと思います。
生産者から反発があるかと思うでしょ?むしろ「聞きたい」という感じなんです。私は実際にお客様と会話しながら販売しているので、お客様の意見と販売者としての意見を持っています。でも、この意見は生産者にはなかなか届かないんですよ。
これまでの仲買人は今まで通りの商品をより安く買い叩くだけで、お客様の意見を止めてしまっていたんです。
綺麗なフルーツを出荷するために消毒をいっぱいして、形を整えていました。でも、「命と健康を守る食生活」を考えた時、消毒は本来必要ないものです。
だから体に害のない虫除けにしていただきたいと訴えてきました。
例えば、木の周りにマリーゴールドを植樹することで根本的な虫除け対策が可能になります。そういう自然な方法があるということを、生産者の方々に伝えてきたんです。
また、土づくりから初めて強い生命力のある木を作ることを提案してきました。お客様のニーズをちゃんと生産者に伝える。それが形になれば、いいものが売れるのは当たり前なんです。
品質を向上することで持続可能な農業になり、生産者の経営や生活も安定するという提言をさせていただきました。いいものを真心込めて作ったものが最後は勝利すると思っています。
ー社長自らお客様と産地のコミュニケーターの役割を担って来られたことで、消費者が求めるものに商品が近づいてきたんですね。すごく勉強されたんじゃないですか。
勉強してきたというのもありますが、農家に育っているから基本がわかっているんですよね。
1日おきぐらいにきてくださるお客様の中で、予防医学の権威とされる教授が近所に住んでおられます。
その方に、「予防医学とはなんでしょうか?」と質問してみたんです。そしたら、「君と同じことだよ。笑顔で美味しくて健康にいいフルーツを販売していることと、研究して社会に貢献することは全く同じだよ」と言ってくださったんです。
世界的な権威のある方にそんなふうに言ってもらえて、本当に泣けました。
最も尊いのは一生懸命生きていること
ートップフルーツ八百文の魅力は、フルーツの美味しさだけじゃなく、社長のお人柄もあると思います。明るいおしゃべりが楽しくて通うお客様も多いのではないですか?
そう思ってもらえたら嬉しいですね。どんなお客様とも会話をします。
果物屋という商売を通じて、社会に貢献できる人間でありたいと思っています。フルーツを食べてしょんぼりする人はいないでしょ?
悩んでいたり、落ち込んだり、いろんなことがありますが、フルーツを食べたらみんな明るい気持ちになる。そのお手伝いができたら嬉しいです。
50年くらいボランティアをやっていて、病院の慰問や障害者施設などにフルーツを寄付しています。誰でも、どんな方にもフルーツを食べて元気になってもらいたいと思うんです。
うちの両親は誠実に一生懸命働いても、不可抗力で大変な時代でした。
地位や名誉やお金を手に入れても本当の感動は得られない。
どんなに大変でも、誠実に一生懸命生きている人が一番人に感動を与えられる。
そういう生き方をしたい思っています。以前、毎朝店の前を散歩している子連れのお母さんがいました。
子育てに疲れていたのかな、表情が暗かったんです。
それに気づいて、お子さんに「おはよう」と声をかけるようにしたら、お母さんが時々お店を覗いてくださるようになりました。今はすごく表情が明るくなったんです。大変そうな人はほっとけないし、役に立てればありがたいなと思っています。
人が元気になって明るくなったらその波動で自分も元気になるでしょ?世の中で最も尊いのは、どんなに大変でも一生懸命負けないで生きていること。
みんながそれぞれ頑張っている。フルーツでそれを応援したいですね。
おすすめフルーツ
ー今おすすめのフルーツはなんですか?
今はやっぱりメロンですね。
メロンには50年以上すごくこだわっています。
クラウンメロンの素晴らしさを少しでも多くの方に知って頂けるよう「クラウンメロン親善大使」も努めています。静岡クラウンマスクメロンというのは大隈重信公がイギリスから種を持ってきて自宅で育てたのが始まりなんですよ。
他の産地では1本の木から複数のメロンを収穫しますが、クラウンメロンでは1本の木から1個のメロンしか収穫しません。
他は小さいうちに間引いてしまうんです。(子メロンとして漬物として出回る。)知識と経験が豊富な生産者が徹底した栽培管理を行なってできるメロン。
その手間を考えれば、デパートの2万円という価格設定は当たり前なんですよね。高いのは桐箱に入って5万円くらいします。
実は1万円ちょっとというのは破格なんです。味は完璧ですからね。ただ、品質の良さをわかってくださるお客様からたくさん注文があるので、おかげさまでお店は回っています。
桜山について
豊かで楽しい街「桜山」
ー桜山の街の印象を教えてください。
本当に穏やかで、落ち着いていて、四季折々いろんなイベントもあったり、豊かで楽しい街です。
西に進むにつれ賑やかになり、東に進むにつれ高級住宅地になっています。でも、人はみんな同じなんです。地位や名誉のある方もたくさん住んでいますが、分け隔てなくいい人が多くて、みんな和気藹々としていますね。
治安もすごくいいですし、ボランティアも盛ん。みなさんお金だけでなく心にゆとりがあるような気がしますね。
古いお家も多いですが最近は新しいお家も増えました。ただ、新しく引っ越して来た方と軋轢は一切ないですね。スッとみんな仲良くなるんです。
小学校は以前は500人くらいでしたが、今は800人くらい。果物を毎年プレゼントしていますが、どんどん量が増えていきます。少子化って本当?という感じ。子育て世代の方にも選ばれているんでしょうね。
おすすめスポット
ーおすすめのお店あったら教えてください。
山田餅本店
桜山の商店街にある『山田餅本店』です。
先代から仲良くさせていただいていて、「草餅」が本当に美味しいんです。もうすぐ100周年。今の旦那さんも跡を継がれて、老舗ですよね。
うちは娘が跡を継いでくれますから、目標ですね。
スイーツラボ
他には、うちの近所にある『スイーツラボ』がおすすめ。
以前うちのスタッフだった子が1人で経営しているケーキ屋さんです。
パティシエの修行と果物屋での修行を両方やって、うちのフルーツを使っています。
繊細で、厳格で、職人としてのプライドがある人。私は果物屋だから、本来はケーキよりフルーツの方がいいんです。
でも『スイーツラボ』のケーキは大好きです。
どこへ持って行っても感動してもらえると思います。
編集後記
『トップフルーツ八百文』の鈴木社長は71歳とのこと。
高齢者という言葉が全く似合わないほど、お肌もツヤツヤ。
明るくはつらつとした表情は街の太陽のような存在です。
お話を伺い、女性として、母としての視点から業界の常識を改革してこられた姿に大きく感銘を受けました。
苦労を苦労と思わない芯の強さは、人生の先輩として見習いたいと思います。
話しているだけで本当に明るい気持ちにさせていただける方でした。
「どんな人にもフルーツを食べて明るく元気になってもらいたい」
鈴木社長のまっすぐで強い思いと、明るい笑顔が、この街の人々を元気にしていることがよくわかりました。
店舗概要
住所:名古屋市瑞穂区汐路町1-5
TEL:052-852-0725