地元の住み心地は、地元の主に訊くのが一番!穏やかな心を持ちながら、激しい地元愛によって目覚めた名古屋最強の伝承者。それが〝超ナゴヤ人〟だ!
『伝説の超ナゴヤ人に訊く』第13回は【熱田区神宮前/熱田/熱田神宮西】です。
熱田名物『きよめ餅総本家』取締役製造部長 新谷滋規さん
「わぁ!きよめ餅みたい!」
20年ほど前に放送されていた、子供のほっぺたの映像の昔懐かしいテレビCMを覚えている方もいるかもしれません。
今回は、年間700万人もの参拝客で賑わう「熱田神宮」の東門の前、昭和10年創業の老舗和菓子店『きよめ餅総本家』でお話を伺いました。
熱田名物「きよめ餅」とは
ー「きよめ餅」の特徴を教えてください。
特徴としては、まず見た目のつるんとしたかわいらしさや、上品さですね。
お餅は、柔らかいだけでなく歯切れの良さがあるところが特徴的と思います。
ただ柔らかいだけでなく、歯ですっきり切れるというのは食べやすさにつながります。
「インスタ映え」みたいなことを考えると、ビヨーンと伸びるほうがバズるのかもしれませんが(笑)うちはこの食べやすさにこだわった上品な羽二重餅をずっと続けています。現代の流行を考えると、甘味は強いほうだと思います。
それによって日持ちするというのもありますが、基本的にはお茶と一緒に召し上がっていただくとちょうどいいくらいの甘さにしてありますね。
昭和10年創業の老舗和菓子店
ー『きよめ餅総本家』といえば熱田名物や老舗和菓子店として有名ですが、創業時のエピソードなどは聞いたことがありますか?
お店の創業自体は1935年(昭和10年)です。
当時「熱田神宮」には名物がなく、三重県の「伊勢神宮」にはすでに『赤福』があったそうなんです。そこで創業者の祖父が、「熱田神宮にも名物になる土産物を作ろう」と考えたそうです。
その際、江戸時代に「きよめ茶屋」があったという文献を見て「きよめ餅」という商品名になりました。だから、ビジネスのヒントとしては「伊勢神宮」の『赤福』に由来があるんですよね。
「伊勢神宮」にも三種の神器がありますし、「熱田神宮」にも「草薙剣」があるので。
当時としては大きなビジネスチャンスだったんでしょうね。
ーもうすぐ創業90年ですね。戦争中など大変な時期もあったと思うのですが、その頃のお話は聞かれたことはありますか?
そうですね。戦時中はやはりモノ不足が深刻だったと聞いています。
特に、砂糖がなかなか手に入らなかったようですね。菓子屋としては砂糖がなければ商売にならないので、配給用のパンを作っていたみたいです。工場の機材が転用しやすかったのかもしれませんね。
幸い空襲での被災は免れたものの、伊勢湾台風では機材やら建物やらも大きく被災してしまったそうです。機械が全てダメになってしまったので、そっちの方が大変だったみたいですね。それまではパンも販売していたのですが、そこでやめて、お菓子一本に絞ったと聞いています。(現在はオリジナルの「きよめぱん」を復刻販売しています。)
昔ながらの製法と味を守り続ける「こしあん」
ー製法は創業時から変わっていないのでしょうか。
はい。機械化はされていますが、基本的な製法や味は創業時から変わっていません。
創業時から北海道産小豆を使い、自家製で炊き上げています。
特にコツというものはありませんが、1つ1つの作業を丁寧に行うということに尽きます。全ての工程で6〜7時間。
最初から砂糖と一緒に炊いているわけではなく、まず小豆だけを炊いて、それをこします。
その後、こしたものを水槽にいれてゆすぎ、不純物を取り除く作業があります。
この工程は何度か繰り返しますが、洗いすぎると旨味成分も出てしまうのでそこが店によって違うところでしょうね。最後に、水分を絞った小豆の「こし粉」を砂糖と一緒に炊き上げます。
このように作業工程が多いので、「こしあん」というのは「粒あん」の何倍もの手間がかかるんですよね。
ーなめらかな舌触りの「こしあん」には、そんなに複雑な工程が必要なんですね。
そうなんです(笑)こしあんって本当に作るのが大変なんです。
『きよめ餅総本家』では、創業時からこの伝統的な工程を守り続けています。もちろん、工程は同じだと言っても、野菜と同じで材料は自然のもの。その年の豆の出来や、気温などによっても状態が微妙に変わってきます。新しいものは水分が多かったりね。
ですから、毎日味見をしながら微調整をして、昔ながらの味を守り続けています。
お客様から「味が変わった」と言われないように、常日頃から気をつけています。先ほど、現代の流行を考えると「きよめ餅」は甘みが強い方だというお話をしましたよね。
ただ、参拝のお客様だけでなく、名駅などのお店にも置いてあるので、「名古屋土産」としてお買い求めいただくこともあるんです。
東京に出張に行った際に名古屋出身の方に会うと、「きよめ餅!懐かしい」と言ってくださることも多いんですよ。
パッケージをみて「あ、きよめ餅だ、懐かしい!」と思っていただいて、一口食べて「あぁ、この味!」と思ってもらえることがやっぱり嬉しいですね。そのためにも、流行りに乗って味を変えないようにしています。
ー定番の「きよめ餅」以外ににもおすすめの商品はありますか?
定番の「きよめ餅」以外にも、きなこあん、抹茶あん、ほうじ茶あんの「きよめ餅」も販売しています。
あとは、土日限定や季節限定、期間限定など商品もあります。
2月ごろから桜が散るまで販売している「さくらきよめ」は非常に人気がありますよ。昭和40年代には洋菓子の販売を始めました。
売上としては「きよめ餅」が主体ですが、ブランデーケーキなど焼き菓子を扱っています。和菓子屋が作る洋菓子は意外に人気なんですよ。また、毎月1日に神宮で行っている「あつた朔日市」では、パインの入ったお餅を限定で作っています。あんこもチョコあんにしています。
(毎月の朔日市(元旦以外)のみ販売)
家業を継ぐということ
ー子供の頃から「老舗和菓子店」という看板を見て育ってこられたと思いますが、どのようなうきっかけで家業を継ごうと思われたのでしょうか?
僕が長男で、妹が3人の4人兄妹なので、頭の中では子供の頃からフワッと考えてはいました。
でも子供の頃からいつも「きよめ餅」を食べていた、というわけでもないんですよ。たまにお店に来た時に食べるくらい。
お店を継ぎたいと強く思っていたわけでも、両親から継いでくれと言われて育ったわけでもなかったんです。だから、20代の頃は「選択肢の1つ」という感じでした。決めかねていたというか、自分のやりたいことを探しつつ、フラフラしていたといえばフラフラしていましたね。
でも、和菓子の組合を通じて、地元のお菓子屋さんの後継者の方々と交流させていただくようになったんです。そこで、「家業」というものがある環境で育った人たち独特の価値観を共有し合えるようになりました。
歴史ある家業というものの「重み」も、そこで感じるようになりましたね。
「途絶えさせてはいけないな」というか。「ある瞬間に決意した」というよりも、同じ境遇で切磋琢磨する仲間の存在があって、少しずつ腹が決まってきたという感じです。
「熱田神宮」と「あつた宮宿会」
熱田神宮への思い
ー「熱田神宮」の魅力を教えてください。
「熱田神宮」は、ほんとにすごい神宮なんです!
三種の神器もあるというだけでなく、社殿も綺麗だし、「あつたの杜」というくらい緑がいっぱいで、見どころもたくさんあります。
だから、もっと参拝客が増えて、賑わってほしいという思いがあります。
もっとすごいポテンシャルを秘めていると思うんですよね。まず、抜群に立地がいいですよね。とにかく駅から近い。新幹線の「名古屋」駅からも、セントレアからも、アクセスの良さは抜群ですよね。
全国からも、インバウンドのお客さんも、とにかく来やすい立地ですから、もっと来てもらいたいですね。現在駅前の再開発をやっているので、来年またお客さんが増えてくれるといいなと思います。
逆にいえば、今はゆったり参拝できるという「穴場」ではありますよね。
市民にとっては、散歩したり、憩いの場というか、公園のように使うこともできる場所でもあります。
ー「熱田神宮」内のおすすめスポットがあったら教えてください。
僕もこのあたりに住んでいるので、職場が近すぎると、仕事とプライベートの切り替えというか、リセットが難しい時もあるんですよね。
そんなときにはやはり「熱田神宮」でリフレッシュします。これだけ贅沢な空間が、平日はゆったり散策できるって全国の観光地でもなかなかないと思います。
木がたくさんあるし、木漏れ日の中を歩いていると心がスーッとするんですよね。
なんとなく落ち着きたいなとか思うときに、精神統一というか、ふらっと歩いて行ったりします。夏場は2~3度涼しい気がしますね。おすすめスポットとしては、社殿の裏というか、北側にある「こころの小径」と、その途中にある「清水社」が好きです。奥にあるので、あんまり知られてないんですけどね。静かで緑が多くて、人も少なくて、結構おすすめですよ。
だいたいみんな本殿しか行かないんですが、いろいろなルートや神社があるんですよ。
広大な敷地なので、本殿以外の見どころをチェックしてみるのもおすすめです。
あつた宮宿会
ー熱田区には老舗のお店がいくつかありますが、老舗同士の横のつながりはあるのでしょうか。
2013年10月に開催された「東海道シンポジウム宮宿大会」というう東海道五十三次の宿場町を盛り上げようという会合があったんです。そこで「宮宿」をアピールするプレゼンテーションを行いました。
その際に集まったメンバーが解散するのは勿体無いという話になりました。これからも熱田を盛り上げようという話になり、みんなで「あつた宮宿会」というまちづくり団体を立ち上げました。
そのメンバーで、毎月1日(元旦以外)に「あつた朔日市」をやっています。みなさんに「朔日参り」というものを知ってもらおうという試みですね。4社共同のお餅「あつた宮餅」も売っています。非常に人気で、9時前から並んでいる人もいるくらいですね。
基本は「熱田神宮」ですが、5月・6月・11月は「秋葉山圓通寺」で開催しています。
ー街を盛り上げようとこうした催しを開催されているのは、とてもエネルギッシュですね。
「あつた宮宿会」のメンバーは、地元の飲食の老舗『あつた蓬莱軒』『宮きしめん』『きよめ餅総本家』『亀屋芳広』『妙香園』と地元の名古屋学院大学、地域NPO(堀川まちネット)などが中心に、現在80名ほど。
「熱田神宮」を観光地として全国の方にも知ってもらいたいという思いでがんばっています。地元の店舗、大学、名古屋市や熱田区、熱田神宮など、産官学が連携しながら熱田の街のにぎわいやまちづくりを推進しています。
2023年に「熱田神宮西」駅と「熱田神宮伝馬町」駅の駅名が変更されました。
前は「神宮西」駅と「伝馬町」駅でしたが、駅名に「熱田神宮」と付けた方が市外の方にもわかりやすいですよね。そこで、「あつた宮宿会」が中心となって名古屋市にプレゼンテーションを行いました。こういう集まりは地元のおじいちゃんたちがやってるというイメージかもしれませんが、実際は30~40代のメンバーが中心なんです。
もちろん上の世代の方もいらっしゃいますが、若い世代の意見を尊重して相談役でいてくださっています。
実際にメインで動いているのはフットワークの軽い若い世代ですね。学生さんも手伝ってくれています。みんなでタッグを組んで、いろんな人を巻き込みながら盛り上げたいですね。
地元で長く商売をするというのは大変なところもありますが、「あつた宮宿会」のような横のつながりが力になって支え合ったり、相乗効果を起こしているというのは大きいと思います。
僕も、『きよめ餅総本家』という1つの店の売上を上げるというだけではなく、「あつた宮宿会」メンバーと切磋琢磨しながらこの街全体を盛り上げていくということが、生きがいになっていますね。
「神宮前」駅周辺の魅力
利便性が抜群
ー神宮前エリアの住み心地はどうですか?
僕もこの街に住んでいるのですが、一番強く思うことは、「利便性が抜群」ということですね。
地下鉄・名鉄・JR、三路線が使えるターミナル的なエリア。名駅やセントレアからも抜群にアクセスが良いですよね。本当は「金山」駅のような総合駅が熱田あたりにあればよかったなと思いますね。
「神宮前」が総合駅になっていたら、もしかしたらすごいことになっていたんじゃないかなと。これからどんどん活性化して、参拝客も利用客も増えて、「神宮前」が総合駅になったら商売的には面白いなと思います。
でも、住宅地としては賑やかすぎるのもアレなのかな?(笑)昔から住んでいる人も多いし、住み心地としてはこれくらいがちょうどいいのかもしれませんね。
ー神宮以外のおすすめスポットはありますか?
やっぱり『あつた蓬莱軒』さんですね。
定番ですけど、やっぱり名古屋のソウルフード的な位置付けですよね、ひつまぶしは。
僕は本店に行くことが多いですが、他にも神宮店や松坂屋店もあります。
取材後記
名古屋市随一の観光名所である「熱田神宮」。
名古屋市民なら誰もが知っている銘店の後継者たちが切磋琢磨しながら街を盛り上げようとしている「あつた宮宿会」。
今回の取材で初めてその存在を知り、若い世代を中心としたメンバーが、さらに学生など若者のエネルギーを取り込みながら伝統や文化を次の世代に伝えようとしている試みに、胸を打たれました。
「神宮前」エリアは現在再開発の真っ最中。
観光地としてポテンシャルの高い「熱田神宮」の門前町として、今後の発展が楽しみな、目が離せないスポットです。
『きよめ餅総本家』店舗概要
住所:名古屋市熱田区神宮三丁目7番21号
TEL:052-681-6161
営業時間:8:30〜18:00(年中無休)
名鉄神宮駅前喫茶部
TEL:052-671-4373
営業時:平日9:00~18:00(ラストオーダー17:30)
土日祝8:30~18:00
定休日:月曜日(月曜日が祝祭日の場合は火曜日)