カルチャー特集

クルーズ名古屋で日常から船旅に出よう ― 変化する中川運河から名古屋港へ。水辺を体感して街を再発見するショートトリップ

今回のカルチャー特集は「ナゴヤの水辺
河畔を歩いて景色を楽しむのも良いですが、せっかくならもっと近くで水辺を体感したい!
そんな思いから、今回は水上での体験取材をしてきました。

身近な場所でちょっとした非日常が味わえる、名古屋の水の旅にご案内いたします!

中川運河の水上交通・ささしまライブと名古屋港を結ぶクルーズ名古屋

▲名古屋港からガーデンふ頭を望む。海の上から眺める名古屋も良いものですね。

みなさん、中川運河でクルーズ体験ができるのはご存じでしょうか?
中川運河で、2017年秋より開始した「クルーズ名古屋」は、最上流の堀止エリアから金城ふ頭までを結ぶ水上交通です。

現在「中川運河再生計画」で大きな変化を迎えている中川運河エリア。
新たに増えた人気スポットも、街の歴史を伝える景観もどちらも味わえるところが中川運河の魅力です。

今回は月に1~2回開催されているクルーズ名古屋のガイド便で、始発の堀止から終着点の金城ふ頭まで約2時間の船旅をしてきました。

ささしまライブから出航-人気スポットが集まる「にぎわいゾーン」

▲あおなみ線「ささしまライブ」駅の南側にクルーズ名古屋の乗船場があります。

クルーズ名古屋には「ささしまライブ」「キャナルリゾート」「みなとアクルス」「ガーデンふ頭」「ブルーボネット」「金城ふ頭」の6つの乗り場があります。

今回は船旅を満喫するため、運河のスタート地点でもある「ささしまライブ」からスタート。

乗り場はあおなみ線「ささしまライブ」駅より徒歩3分。『グローバルゲート』を背に南に歩いていくと、名古屋高速の高架付近に乗船券売り場があります。
ガイド便を予約していたので、名前を告げてチケットを受け取ります。

▲のどかな水辺から振り返るとすぐ目の前に高層ビルが立ち並ぶ。

目の前には中川運河の堀止が広がり、静かな水面にはカモの群れがのんびりと浮かんでいます。
振り返ると、近年整備が進んだささしまライブエリアの現代的な都市景観が。すぐ近くにありながら景色のギャップが感じられる面白いスポットです。

ちなみにこの堀止エリアには2026年を目途に人工ビーチが整備される計画とのこと。ますます変化する名古屋の水辺に着目していきたいですね。

▲停泊するクルーズ船。迷子にならずにすぐに辿り着けました。

13:20の定刻となり、ゆっくり船が動き始めました。
月に1~2度あるクルーズ名古屋のガイドはNPO法人伊勢湾フォーラムの柳田哲雄さんです。あたたかくユーモアのある語り口で中川運河の歴史や見どころを教えてくださいます。

▲小学生にガイドをすることもあるという柳田さんのお話はとてもわかりやすく楽しかったです!

クルーズ船がゆっくり進行していくと、さっきまでのんびりしていたカモが一斉に飛び立ちます。運河通りの橋をくぐり、いよいよ運河の幹線へ。

▲広見憩いの杜。向こう側に続くのはかつて松重閘門で堀川と結んでいた東支線。

猿子橋を過ぎると、中川運河の幹線と東支線が交わる一角に広見憩いの杜が広がっているのが見えてきます。広大な芝生の上で、水辺を見ながらの散歩も楽しめそうです。 

▲長良橋の東岸にある『珈琲元年中川本店』。夕方に来ると水辺のテラスから夕陽を眺めることができます。

中川運河上流部のエリアは「にぎわいゾーン」として再生計画が進められ、名古屋港管理組合が管理する沿岸の土地への出店規制も緩和され始めています。
近年は鋳物の鍋で人気の『バーミキュラビレッジ』や、水辺にテラスを設けた『珈琲元年中川本店』など、新たなスポットが誕生。
この日はテラスにいるお客さんと手を振りかわす場面もあり、童心に返ったようでした。

▲鵜の大群に遭遇!まるでヒッチコックの鳥のよう。

思いのほか水辺にいる鳥の群れも多く、クルーズ船が進むと一斉に飛び立つさまは圧巻です。都市にいながらバードウォッチングも楽しめました。

倉庫の景観にも注目-中川運河らしさが集まる「モノづくり産業ゾーン」

長良橋を過ぎ、中川運河の中流域に差し掛かると昔ながらの倉庫が目立ち始めます。
中川運河の沿岸地域では水運とともに町工場や倉庫がたくさんありました。このエリアを「モノづくり産業ゾーン」として再生計画が進められています。

▲中川運河が水運で栄えた頃。名古屋港から運河へ向かう小舟(名古屋港管理組合所蔵/柳田哲雄さん提供)

元々、中川運河は工業都市・名古屋の水運を発展させるため、昭和7年に全線開通した歴史があります。
当時は東洋一の大運河として、旧国鉄「笹島貨物」駅(現在のささしまライブ付近)と名古屋港をひっきりなしに船が往来していました。

ガイドの柳田さんによると、その名残としていまでも運河側に大きな扉をつけた倉庫が残っているそうです。
ちなみに運河側に扉がない倉庫は新しく建て替えたものだとか。近くを通ったらぜひチェックしてみてください。

▲大きな古い倉庫が立ち並ぶ光景は中川運河ならではのもの。水に面した扉が水運の歴史を物語る。

いまでは水運の役目をほとんど終えている中川運河ですが、なぜその風景があるのかを知ると街の文脈に思いを巡らせることができますね。

また、ガイドでは中川運河に架かる橋についての解説も興味深かったです。

▲かつてここを多くの船が航行していた名残の信号を発見。

陸からは見づらいですが、船の走行用に橋げたに信号機が付けられています。
また、古い橋では今では造るのが難しい凝ったデザインの橋脚であったり、逆に最近の橋はシンプルな造りになっていたりと、水上ならではの視点で街の特徴に目を向けることもできました。

▲ひとつひとつデザインの違う橋脚。歳月を思わせる無骨な姿。

普段くぐることのない橋の下から橋脚に目を向けてみると、これまでになかった視点で街のデザインへの興味が沸いてきました。

▲ガイドの柳田さんもお気に入りだというかまぼこ型倉庫。

買い物や温泉に立ち寄れる「キャナルリゾート」「みなとアクルス」乗船場も

▲港北運河に面したららぽーと入口。船を降りたらすぐそこは巨大ショッピングモール。

港区にあるスパ施設『キャナルリゾート』や、『ららぽーと名古屋みなとアクルス』は船からの来店も可能です。
「みなとアクルス」乗り場では、船を降りて1分以内にお買い物に行くこともできるので、ファミリー連れのお出かけにも楽しめるのではと思います。

みなとアクルスは大型ショッピングモールの『ららぽーと』をはじめ、『邦和スポーツランド』などのスポーツ施設や、東邦ガスが運営する防災拠点、大規模マンションなどが集まっていて、近年人気が高まっているエリアです。
ゆくゆく駅エリア特集でも取り上げる予定ですので乞うご期待!

▲「みなとアクルス」乗船場の手前には2024年春に廃止が予定されている臨港線(貨物線)の線路が。貴重な撮影スポット。

水上スポーツ拠点の拠点-「レクリエーションゾーン」

キャナルリゾート付近の玉川橋下流は「レクリエーションゾーン」となっていて、少し両岸の雰囲気が変わってきます。

▲よく見るとボートがしまってある倉庫も。

これまで物流会社や冷凍会社などの倉庫が目立っていた景色から、緑の多い遊歩道が増えてきました。
港にほど近いこのエリアはボートの練習拠点としても活用されていて、市民のスポーツや憩いの場にもなっています。

▲職住一体となった船の生活(名古屋港管理組合所蔵/柳田哲雄さん提供)

水運が盛んだった昭和中期までは、艀(はしけ)がたくさん浮かび、水上での荷揚げを担う人々が舟で生活していたそうです。
いまでは考えられないことですが、艀で生活する子供たちは学校へ行くために児童寮で暮らしていたのだとか。
こうしたお話が聞けるのはガイド便ならではの楽しみでもあります。

中流域が物流や産業の地域として工業的な雰囲気が色濃く感じられたのに対し、現在の下流域はより開放的な印象ですね。
同じ舟でも仕事のための舟と、アクティビティとしてのボートではかなり変化の大きいエリアだと言えそうです。

いよいよ中川運河から名古屋港へ

ここから中川運河を出て、名古屋港エリアへと向かっていきます。
運河と港の境界には、名古屋でここだけの貴重な体験も!

パナマ運河と同じ閘門式が体感できる「中川口通船門」

▲名古屋港から中川運河に入るタンカーの様子(柳田哲雄さん提供)

中川運河は河口で締め切られているので普段は潮の満ち引きの影響を受けることがありません。
運河から港へと出ていく船は閘門の中で水位調整をして、海へと出ていく仕組みとなっています。

これは世界的に有名なパナマ運河と同じ方法で、名古屋でも船に乗って閘門の仕組みが体感できるのはここだけです。

▲上流側の扉が締め切られ、クルーズ船は閘門の中へ。
▲その日の海の潮位に合わせて一気に水かさを上げます。潮待ちをしなくても海に出られる仕組みです。

閘門の中に入ると上流側と河口側の扉が締め切られ、一時的に水槽のような空間ができます。潮位に合わせてどんどん水かさが上がっていくのが護岸のメーターで一目瞭然です。
クルーズ船が大きく揺れることはありませんが、水かさが増えている体感はしっかり感じられるのでわくわくします。

▲潮位に達したら、港側の門がゆっくり開かれていきます。

予想よりもあっという間に潮位に達すると、クルーズ船はいよいよ門の外へ!

ガーデンふ頭で乗り継ぎ-名古屋を一望できる「名古屋港ポートビル」

▲観覧車のすぐ西側からガーデンふ頭へ回り込みます。

クルーズ船の左手に名古屋港の観覧車が見えてきました。約45分の船旅でガーデンふ頭に到着です。

▲名古屋港のガーデンふ頭。名古屋港水族館や南極観測船ふじがあるおなじみの観光スポット。

この後、金城ふ頭まで行く場合はガーデンふ頭で乗り継ぎ。
待ち時間は名古屋港ポートビル1階のロビーでゆっくり過ごすこともできます。

▲実はガーデンふ頭のランドマークでは一番の古株。帆船のような外観。

次は約20分後に出発ということで、せっかくなのでポートビルの展望台に行ってきました。
名古屋港ポートビルは白い帆船を模したランドマークタワーです。
名古屋港の観光スポットの先駆け的存在として1984年(昭和59年)に開業しました。

この日は曇りでしたが、地上52mの展望室からは名古屋を一望することができました。

▲中央右の赤い橋の奥からやってきました。
▲写真右側に真っ直ぐ伸びる道路は江川線。名駅まで見渡せます。
▲ガーデンふ頭の東側には堀川(左)と山崎川(中央)の河口が見える。
▲これから向かう南側にある名港トリトン。

名古屋の都心部から港に出て、外側から街を眺めた後、さらに高所から街を俯瞰して見てみると、頭の中にある地図の解像度が鮮明になりました。
これまで辿ってきた航路の位置関係や、他の河川や街の中心部との距離感もぐっと掴みやすくなります。

3階には名古屋海洋博物館もあるので、名古屋港を中心とした水辺について詳しく知りたい方はこちらもおすすめです。

ガーデンふ頭からブルーボネットを経由して金城ふ頭へ

▲次はこの船で金城ふ頭へと向かいます。

ガーデンふ頭での乗り継ぎでは、水族館からブルーボネット、金城ふ頭のリニア鉄道館やレゴランドに向かう家族連れも。
水上交通の非日常気分を味わいながら、次の目的地に移動できる楽しみがありますね。

▲オーストラリアのオペラハウスをイメージしたという建物がお出迎え。色とりどりのワイルドフラワーガーデンでは季節の花が楽しめます。

この日はブルーボネットの最終営業日。リニューアル後は2025年春に再オープン予定です。ワイルドフラワーガーデンがどのように変化するのかいまから楽しみです。

ブルーボネットのある潮見ふ頭から名港トリトンをくぐり抜け、日本製鉄名古屋製鉄所の巨大な工場が見えてくると、クルーズ船は名古屋港の西側にある金城ふ頭へと向かっていきます。

実は日本一の港湾面積を誇る名古屋港。
遠くに見えるガントリークレーンも名古屋港の一部と知り、その規模の大きさに驚かされます。

▲船を降りるのが名残惜しかった…!また乗りたいですね。

この日は曇り続きでしたが、最後に雲間から光が差し、幻想的な空模様を眺めながら金城ふ頭へと到着しました。

約2時間のささしまライブから中川運河を経て名古屋港へと向かう船旅はこれにて終了。
もう少し乗っていたかったと感じるほど、あっという間の2時間でした。
クルーズ名古屋のルートにはみなとアクルスや名古屋港、金城ふ頭などの観光拠点も多く、水上バスと地下鉄やあおなみ線との組み合わせでフレキシブルなルートが辿れるのも魅力ですね。

今後、再生計画によって新たな施設が誘致される予定もある中川運河。
昔ながらの景色と新たに誕生したスポットが織りなす光景は、少しずつ変化の時を迎えています。

取材後記


約2時間の中川運河から名古屋港へのクルーズ旅。
観光スポットとしても魅力的ですが、ぜひ地元の人にこそおすすめしたい体験だと感じました!

私自身も土地勘のある運河周辺を水上から眺めてみたことで、当たり前に見ていた風景にも確かに水運時代の名残や、中川運河だけにある個性を知ることができました。
いつもと違う角度や距離で街を見つめ、過去を知ることで、これからの変化していく街がまた違った表情で立ち現れるような気がします。

街を知ることは、自分が住む街を好きになる第一歩なのだと、クルーズ体験を通じて改めて感じました。

クルーズ名古屋について

主に土・日・祝に運行。ささしまライブからガーデンふ頭を経由し、金城ふ頭までを結ぶ水上バス。
運航は東山ガーデン株式会社。

運賃・時刻表はクルーズ名古屋サイトをチェック

各乗船場の最寄り駅はこちら
ささしまライブ:あおなみ線「ささしまライブ」駅
キャナルリゾート:名港線「東海通」駅、市バス「玉川町」バス停
みなとアクルス:名港線「港区役所」駅
ガーデンふ頭:名港線「名古屋港」駅
ブルーボネット:市バス「ワイルドフラワーガーデン」バス停
金城ふ頭:あおなみ線「金城ふ頭」駅

「ナゴヤの水辺」特集をもっと読む
ABOUT ME
アバター画像
イトウユキコ
1990年 名古屋市出身・在住。ギャラリー運営を経て、ライター・編集者に。ほかにナゴヤでまち歩きなどのイベント企画も。地域の文化や産業など、街の文脈を伝えることがライフワーク。セトモノの街・愛知県瀬戸市で地域プロジェクトにも関わり、書くことを軸にローカルを楽しむ人。