ご存知ですか?角の丸い窓
名古屋の皆様、あるいは名古屋にご興味のある皆様、はじめまして。
突然ですが、皆様は
【角の丸い窓】
と言われて、どのような窓辺を思い浮かべるでしょうか。
この謎の五文字は何を隠そう、私が勝手にそう呼び始めたものです。
実は案外読んで字の如く、そのままの意味。
“四隅の角、あるいはいずれかの角が、ガラスから丸くカットされている窓”
そんな窓が私はどうにもたまらなく好きで。
好きが高じて、今回記事を書かせて頂くことになりました。
しかも記念すべきdelaDESIGNカルチャー特集の第1回に、です。
え、本当に私で大丈夫?
とは思いながらも、遠慮なく容赦なく “窓への偏愛” を語らせて頂きたく存じます。
角の丸い窓って、なに?
まずは私が【角の丸い窓】蒐集にあたって決めている「6つのルール」をご紹介します。
なに、そう難しくはありません。
- 基本、四角い窓の角が丸くなっている
- 窓ガラスから角が丸くカットされている
- アーチ型やまん丸窓は除く
- 窓周りの枠や装飾等がアールなだけは除く
- ベランダの枠の角が丸いだけは除く
- 住人のプライバシー保護のため詳細な住所は書かない
これらを守れば貴方も立派な【角の丸い窓】愛好家。
ともに窓を愛でて参りましょう。
【角の丸い窓】のみをひたすら投稿しているため「変態的」「やばい」と大変好評です。
大須に点在する角の丸い窓たち
【角の丸い窓】をご存知ない方にも、是非身近に感じていただくために!
今回は、名古屋好きなら一度は訪れていらっしゃるだろう “大須エリア” の窓たちをご紹介していこうと思います。
大須といえば、碁盤の目のように重なりあうアーケード。
大須観音の門前町として栄え、今では浅草と秋葉原と巣鴨を足して三で割ったようなカオスな街、なんて言われていたりいなかったり。
この雑多な感じが私はとても好きです。
そして商店街のほど近くには、かつて遊郭もありました。
よくよく探すとその名残を今もひっそりと感じられます。
「この歴史ある街に、本当に角の丸い窓なんてあるの?」
「まったく見覚えがないんだけど!」
そうお考えの方もいらっしゃることでしょう。
まあまあ、焦らず。
愛知県民の私も高校生の頃より通う大須でありますが、「なんか角の丸い窓好きかも」とあるとき思い始めるまでは目にもとめておりませんでした。
街に溶け込んでいるのですね…
角の丸い窓デザインの共通点とルーツ
私が撮影蒐集しているのは、基本的に1960〜70年代に流行した窓となります。
角の丸い窓は喫茶店や理美容、商店、商業施設、公共施設などに幅広く使用されており、皆様も必ずや一度は目に入ったことがあるはず。
ただ覚えていないだけなのです。
でもこれからは見逃せなくなるはずです。ようこそ。
角の丸い窓のルーツは、
1960年代のモダンデザインを源流とする
70~80年代に流行した近未来的なデザイン。
20世紀中盤の曲線が特徴的なデザイン。
或いは1940〜60年代にインテリア業界で流行。
これらの流れを汲んでいると私は予想しています。
比較的無骨なイメージの強いスペースエイジに、柔らかく可愛らしくかつ洗練されたミッドセンチュリーの流れが合流したのではないでしょうか。
この時代の漫画やアニメなどSF作品を見てみても、やはりスタイリッシュかつ柔らかな曲線のイメージが思い起こされます。
欧米と日本の角の丸い窓は何がちがう?
実は角の丸い窓は欧米諸国にも…
しかしそちらではコンクリート製の建築であったり、無機質で無骨なイメージが多いのです。
言うなれば黒川紀章の中銀カプセルタワービルのような感じ。
対して日本の角の丸い窓の建築(あえて建築と呼びたい)はどこか可愛く仕上げていることが多いです。
皆さんはそろそろお気づきになるでしょう。
新幹線や電車、飛行機などの “乗り物” に角の丸い窓は多く使用されているな、ということに…
その理由はずばり “衝撃を分散させるため”。
直角の窓は角に衝撃が集中し、割れやすいそうです。
転じてその曲線から宇宙船のイメージに多用されるようになり、角の丸い窓のイメージへと繋がったのではないでしょうか。
最近のCMなどでも宇宙船のイメージなどには頻繁に使用されていますね。
高度経済成長期…
日本に「新しい窓のデザイン」として入ってきた際、もともとあった「和室の丸い窓」などの柔らかく優しい印象、また「和を以て尊しとなす」精神、もっと言えば「丸いものってなんか可愛い!」という日本人特有の感覚が、日本独自の【角の丸い窓】へと変化していったのではないでしょうか。
そう、まるでラーメンやカレーが日本ナイズされていったように…
無駄にこそ愛がある!わざわざ付けた装飾たち
角の丸い窓もそうですが、昭和以前の建築の装飾は特に愛おしく感じます。
それらはある種の「見栄」であり、本来なら無くてもよいもの、言葉を選ばなければ「無駄なもの」であるかもしれません。
しかし、それでも、と取り付けられた装飾たち。
私はそんな執着をこそ「愛」と呼びたい。
無駄とはすなわち愛である、と。
角の丸い窓と私
如何でしたでしょうか。
少しくらい【角の丸い窓】にご興味を持って頂けたなら嬉しいです。
ご紹介した他にもまだまだ大須周辺には【角の丸い窓】はございます。
是非窓探しの散歩にお出掛けしてみてくださいませ。
こんなに素敵で可愛らしい窓なのに、角の丸い窓を巡っていると、実は空き家であることが多々あります。
大須は街全体が賑わっているためか、そこまで多くはありませんが…
私の夢は、角の丸い窓が正しく愛され、活用され、重要文化財とは言わないまでも保存活動が盛んに行われるようになること。
何なら私自身が「角の丸い窓専門の空き家バンク」をやりたいほどです。
地図上ではまだあっても、行ってみるとすでに取り壊されていたり、建て替えられていたり、リフォームで普通の窓に変えられていたり…
「古くさい」なんてどうか思わないでほしいのです。
受け継がれてきた文化の最先端であったのです、かつては。
それを “今” 愛でている人間がひとり、確かにここにいます。
街の歴史や建物のルーツを探っていくと、きっと楽しい発見や、新しいときめきが必ずあるはず。
角の丸い窓に限らず、ちょっと普段と違う視点で街を眺めてみるのは如何でしょうか。
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河合莉子
1992年愛知県瀬戸市生まれ。2016年東京での修業時代を経て独立、主に東海地方や東京で活動中の写真作家。自身の写真作品と並行し【角の丸い窓】を中心に昭和建築を愛でていたら、いつの間にやらライターとしても活動するように。
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