地元の住み心地は、地元の主に訊くのが一番!穏やかな心を持ちながら、激しい地元愛によって目覚めた名古屋最強の伝承者。それが〝超ナゴヤ人〟だ!『伝説の超ナゴヤ人に訊く』第11回は【千種区今池】です。
画家・写真家・陶芸家・ライブカフェ&バー『あらたると』オーナー うえのタンク智之さん
個性豊かなバーや居酒屋が集まる飲み屋街、老舗から小規模までライブハウスやが集まる音楽の街「今池」。
さまざまな表情が交錯する今池の街は、「カオス」と表現されることもしばしばです。
風俗街という印象が払拭されつつある今、色濃く残るイメージは音楽や文化の発信地。
今回は、そんな今池でライブカフェ&バーという一風変わった小さなお店を営業するうえのタンク智之さんにお話を伺いました。
(タンクさんは筆者の友人でもあります。)
ライブカフェ&バー『あらたると』について
ーーまずは、ライブカフェ&バーという特殊な業態のお店のオーナーになられた経緯について教えてください。
このお店は、2010年に前オーナー菊田直美さんと言う女性画家がOPENしたお店なんです。当時、僕はお客としてこの店に通っていました。
ミュージシャン・画家・カメラマンなどアーティストやクリエイターが集まるお店。
僕もこの店を通じてどんどん人脈が形成されていきました。一言で言うなら「サークルの部室」かな。
お店に入った人がみんな友達になるし、お客さん同士が自己紹介・他己紹介し合う雰囲気が自然とできています。だから1人でも気軽に立ち寄れるんですよね。
人には、家族や職場以外に憩いの場が必要だと思うんです。
ONとOFFの境目になる空間として、僕にとっては欠かせない空間でした。ところが、前オーナーが還暦を迎えたタイミングでお店を閉めるつもりという話に。
お孫さんの世話などで忙しくなるから、ということでした。「なんとかこの雰囲気を残したい」と思って、営業スタイルはそのままお店を引き継ぐことを名乗り出たんです。
2016年、1年間の引き継ぎ準備期間を経て、その年の年末に会社を退職。
2017年3月からお店を引き継ぎました。
ーーライブカフェ&バーでは、どのようなライブが開催されていますか?
主に週末に、生演奏のライブを開催しています。
ジャンルとしては筑前琵琶などの民族音楽が3割、ジャズが3割、弾き語りが4割。
この傾向は前のオーナーから変わりません。アーティストによって、前もってチケットを購入していただく「チケット制」と音楽が気に入ったお客さんがチップとして払う「おひねり制」の2スタイルがあります。
出演オファーをいただくことが中心ですが、僕が好きなミュージシャンはお店からオファーすることも。特に個性的なライブとしては、アイリッシュセッションがあります。
名古屋市内でもこれをやっているのは3件くらいかな。ジャズプレイヤーがお店に集まると、その場でいきなりゲリラ的な演奏が始まることもありますよ。
人気のアーティストとしては、タテタカコさん・リトルキヨシさん・加藤伎乃さん。
彼らはコアなファンに根強い人気があって、必ずチケットが完売します。
ーーライブ以外にはどんな特徴がありますか?
僕の本業は画家なので、僕がオーナーになってからはアート系のイベントにも力を入れています。
お店の壁をギャラリー化していて、僕が発掘したアーティストの作品をお店で月替わりで展示しています。お客さんの反応が良ければ、丸の内にある『Garally WhiteCube』で展示するという流れ。
お店の壁はギャラリーと同じ塗料を使っていて、ライティングもこだわってるんですよ。
お酒とお茶、料理は全て”好き”なもの
ーーBARということで、お酒やお料理のこだわりも教えてください。
もともとすごい飲んべぇなので、好きが高じてお酒にはめちゃくちゃ詳しくなったんですよ。
会社員時代に「利酒師」と「ワインエキスパート」(当時の資格)を取得しました。
お酒に中国茶を漬け込んだり 酒蔵とコラボしてオリジナルのお酒を作ったりしてます。あと、お店にはお酒が飲めないお客さんもたくさんいらっしゃるので、お茶にもこだわって・・・・
というのは建前で、完全に僕の趣味でお茶にはかなり入れ込んでいます。
お店には常時、中国茶・台湾茶・各種健康茶が40種類以上あって、完全にオタクの世界ですね。
実は、お茶のほうがお酒より原価が高いんですよ(笑)料理も、「元々食べるのが好きだから」というところが大きいですね。
特に力を入れてるのはカレーとパスタ。
1人暮らしの手抜き料理の定番で、お店で出せるものってカレーとパスタですよね。カレーはもともと趣味でスパイスから作っていたんです。
インド旅行でスパイスカレーが好きになったんですが、その後、久屋大通にあった「カレーのモリ」という店の「チキンカシミール」にハマりました。好きすぎて週3食べていた時期もあったくらい。
そこからカレー作りに目覚めて、インド人の友人やインドカレー店オーナーから手ほどきを受けたりしました。パスタも1人暮らしでよく作っていましたね。
お店ではトマト・オイル・クリームから選べます。
一番好きなのは「ポルチーニ&ブルーチーズのパスタ。以前東桜にあった「バルカ」というお店にあったポルチーニ&ブルーチーズのパスタが好きすぎて、「なんとか同じ味を出したい!」試行錯誤して自分で辿り着きました。
凝り性なので「創りたい!」と思った時の衝動や行動力は爆発的。
そこからはとことんやってみる感じですね。
気になったものを知りたいが故の衝動が世界を広げ続けている
ーー本業が画家ということですが、ライブカフェオーナー以外にもさまざまなお仕事をされているそうですね。
そうなんですよ。ざっと数えただけでも7つの仕事がありますね(笑)
- ライブカフェオーナー(ライフワーク)
- 画家(収入のメイン)
- 陶芸家
- 写真家
- 障害者支援の法人の主催(NPO法人/社団法人)
- 臨床心理士(ブランクあり)
- 催眠療法士(ブランクあり)
情報量多すぎですよね(笑)「何者?」ってよく言われます。
趣味まで入れると、和装・香道・茶道・古民家暮らし・畑…とまだまだあります。やりたい!と思ったことはとにかくやってみる。
寝るのも忘れて夢中になるようなことが、だんだん仕事になっていった感じです。僕の原点は、幼少期に岡本太郎先生の作品に衝撃を受けたこと。
子供の頃からずっと絵は描いていました。あとは、少中学生時代の夏休みは叔母の家があったヨーロッパで生活していました。
母が「多様性のある文化圏での価値観を身につけさせたい」と考えて預けたそうです。叔母はファッションジャーナリストだったので、フランス・イタリア・オーストリアなど、欧州各地を巡りいろんな文化に触れることができました。その頃に現地の美術館であらゆるアートに触れたことは、僕の人生に大きく影響しています。
同じ頃、徐々に自分でも作品を作るようになりました。絵画だけでなく、陶芸も始めたり。初めて作品が売れたのは高校生のときですね。
写真を始めたのは大学生から。
携帯電話のカメラから始めて、今では撮影業も仕事なりました。
マニアックなところでは、ピンホールカメラ(写真レンズを使わない針穴を利用したカメラ。針穴写真機ともいう。)にもハマりましたね。
ーーさまざまな活動が画業のインスピレーションにつながっていたりするんでしょうか?
うーん、全くないね(笑)
繋がっているかも知れないけど、僕にとってはそれぞれが独立しているイメージです。社会人になって、会社員をしながらも画業や陶芸、撮影業は続けていました。
『あらたると』に入り浸るようになって、アーティストさんやミュージシャン、たくさんの出会いがありましたね。しかし、2015年の時点で絵の在庫が全て完売してしまったんです。
ヨーロッパで個展を開催するには最低限の作品数30点を用意する必要があって、そのためにもまとまった製作時間をとる必要がありました。
そのタイミングで『あらたると』のオーナーがお店を辞めるという話を聞いて・・・・
奇跡的にちょうどよいタイミングだったんです。そんなかんじで、2016年の年末に会社を退職して、今のライブカフェオーナーになりました。
会社員時代よりも、画業など他の仕事にかけられる時間が格段に増え、自分らしい生き方ができているなと思います。神様がこのタイミングを用意してくれたのかもしれないと思っています。
収入の大半は画業から得ていますが、『あらたると』はライフワークとしてとても大切な仕事。あとは、障害者支援にもすごく力を入れていて、1人でも多くの人が自分らしく生きられる世の中を作るために頑張っています。
「おかげさまの人生」
ーー今、やりたいことができている秘訣は何だと思いますか?
僕の人生はこれまで運とタイミングだけで回っていると思っています。
描いた絵が売れたり、好きを高じて始めたことが仕事になっているのは、全てご縁や運のおかげ。子供の頃から母によく言われてきた言葉があって。
「おかげさまの人生だよ」自分の力でここまできたとは思えないし、本当に人に恵まれてきました。
だからこそ、その恩返しというか、障害者支援や福祉に強い関心があります。僕が考える「愛」の定義は「求めるよりも与えた方が楽」というもの。
子供の頃から他人に喜んでもらえる瞬間が好きで、そのために生きてるという感じです。たくさん持つよりも、何も持っていない方が楽。
空っぽ(Empty)の方が、よりたくさんのものが入ってくるし、より自由になれる。
「空っぽであることや何もないことはデメリットではない」という感覚ですね。
カオスな街「今池」について
ーー今池にはどんな経緯で住み始めたのでしょうか?
元々、祖母の妹が今池で美容院を開業していて、そこによく遊びにきていたのでこのあたりには馴染みがありました。
それで、名古屋に引っ越してきた時に今池に住むことに。もう20年以上前ですね。この20年で、今池のイメージは「歓楽街中心の商業地」から「便利な住宅地」に大きく変わりましたね。
単身者にとってはとても住みやすくなったと思います。
馴染みの飲み屋でちょっと飲み歩いて、すぐ帰れる街。スーパーも2軒あるし、肉屋・魚屋・酒屋といった専門商店も充実しています。
なんとなくですが、覚王山以東の文化が西に流れてきているイメージですね。駅周りに関しては「子育ての街」という印象まではいきませんが、それでも昔よりだいぶ女性や子供も歩きやすくなったと思います。
僕にとっては商店街も含めて完全にホームタウン。
「よそ者」を大事にしてくれるというか、地域の人や商店街の方々が外部の人間をあたたかく受け入れてくれる雰囲気があるんです。歓楽街のイメージはなくなりつつありますが、老舗のライブハウスは健在。
音楽の街、サブカルの街というイメージはは今も強く残っているし、僕もいちライブカフェオーナーとして守り続けたいと思っています。
今池のおすすめスポット
ーー今池のおすすめスポットを教えてください。
コメダ今池店
『あらたると』のご近所でもある『コメダ今池店』は是非おすすめいしたいですね。
現存する最も古いコメダは「高丘店」ですが、今池店もかなり古いオールドコメダ。エキゾチックな店内の雰囲気が、どこにもない感じで味があります。
昭和というかなんというか、独特の雰囲気で・・・でもめちゃくちゃ落ち着くでしょ?(実はインタンビュー取材は開店前ということもあってこちらのコメダで行いました)
住所:名古屋市千種区今池1丁目29-14
TEL:052-733-7662
営業時間:6:30~19:00
きも善
このお店は「今池プロレス」(エリア特集を参照)の「絶対チャンプ」でもあるマグナム今池さんのお店。
「遮断機」という名物メニューがあるので、ぜひ食べてみてください。砂肝、心臓、肝、もつ、生ねぎを生卵で和えてあって、ニンニクの風味が効いたスタミナ料理です。
別名があって、ここではとても言えないけど、ググってください(笑)
住所:名古屋市千種区今池1-14-1
TEL:052-733-5868
営業時間:16:00〜23:00(ラストオーダー22:00)
中屋パン
昭和11年から営業している老舗のパン屋さんです。
ここのあんドーナツとあんぱんが大好き。
あんドーナツはちょっとシナモンが効いてて、あんぱんは酒種をつかってパン生地を発酵させているそうです。
住所:名古屋市千種区今池1-9-16
TEL:052-731-7945
営業時間:9:30~19:00
定休日:土・日・祝(3連休の場合,祝日の金・土曜は営業)
味仙/ピカイチ
味仙は「台湾ラーメン」発祥のお店。土日は行列ができます。
ピカイチはドラゴンズファンの聖地としても有名ですね。もはや説明不要の「今池の顔」ですね。
店舗詳細はエリア特集を参照。
取材後記
バーというと、シックな大人の雰囲気で、どこか敷居の高いイメージはありませんか?
陽気で朗らかな雰囲気の『あらたると』は、そのイメージを覆してくれるでしょう。
多種多様なライフワークを持ち、万華鏡のような魅力の詰まったタンクさんのお店には、アート好きや音楽付きの常連さんや街の人がふらりと立ち寄り、心地よい音楽とアートに身を委ねます。
「サークルの部室」のような空間で、今日もあの人とこの人が友達になる。
「家族や職場以外の憩いの場」で、心地よい音楽とアートに触れながら今日も一杯飲んで帰る。
今池らしさが詰まった『あらたると』と、その生き様で今池らしさを表現するタンクさん。彼の底知れない魅力と愛の深さに、一友人として胸がいっぱいになりました。
(ちなみに、文章は敬語で書いておりますが、取材は全てタメ口で遂行しました🙏)
店舗情報
住所:名古屋市千種区今池3-2-9 ママビル 1F
TEL:052-898-6612
営業時間:15:00~24:00(L.O.23:30) 定休日:不定休
うえの智之 個展 「SYNESTHESIA」
2023.10.19(Thu)〜2023.10.29(Sun)
OPEN:13:00〜19:00(最終日は17:00まで)
休廊日:10/23(月)24(水)25(木)
「音」を「色」として認識する知覚現象(共感覚)で描かれる色彩。
目には見えない「音」を私を通して視覚化する。
会期中同ギャラリーにて一から絵を制作します。
Gallery WhiteCube Nagoya Japan
住所:名古屋市中区丸の内2-15—28 ビッグベン丸の内 4F
【画家プロフィール】
うえのタンク智之
三重県熊野地方出身 名古屋在住
絵画、陶芸、写真などジャンルやフィールドにとらわれることのない活動を展開するアーティスト。
企画グループ展「偏愛図鑑」「G TAG」「個展・ユラユラとフルエ」and more…
国内外で個展・グループ展・ライブペイント多数。
気になったものを知りたいが故の衝動が世界を広げ続けている。
後日談 タンクさんの個展に行ってきた
10月某日、タンクさんの個展に行ってきました。
「音」を「色」として認識する知覚現象(共感覚)を持つタンクさん。
個展では、お客さんが指定したキャンバスや私物に、お客さんが指定した音楽を聴いた画家・タンクさんが脳内にイメージした色を載せていきます。