あの男・・・
「あまなっとう」はどこへ?
かつてデラデザインにあまなっとうという男がいた。2日間で本山のスイーツ店6軒をハシゴした変態である。彼はデラデザインから去る時、ある言葉を残していった。
「名古屋のハードコアエリア、今池か中村公園をやる時は必ず戻ってくるよ。」と……。
本誌編集長oukiは彼を探した。今池特集には彼の力が必要だと考えたからだ。ある噂で、彼が南区柴田のキャバクラで客引きをしながらなんとか生計を立てていると聞いた。
oukiは柴田へと足を運んだ。すると彼は変わり果てた姿でそこにいた。かつての面影はなく顔には深いシワが刻まれ、聞かずともこれまでの苦労が偲ばれた。
「ンッフフフ久方ぶりですねェ、あまなっとうさん。いよいよ今池特集をやりますよォ?約束通りデラデザインに戻ってきてください」
「そんなことも言ったかな。でも俺はかつての俺じゃない。すまんが他を当たるんだな。」
「……今池は名古屋屈指のマッドシティ(失礼)。残念ながら並のライターでは深掘りしきれぬのが現実です。再びあなたの力が必要なのです。」
「……条件がある。」
「条件?」
「一つ目は、俺は表舞台には登場しない。代わりに妖精グループから精鋭を派遣する。そしてもう一つ、俺は今池の真の〝リアル〟を描きたい。ベロニカさんの校閲を通さず、お前の責任で記事を公開しろ」
しばらく重い沈黙が続いた後、oukiが笑った。
「……ンフフフフ承知しましたよォ?その条件、必ず守ります。」
半年ぶりにあまなっとうが動き出す。もしかしたらパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。oukiの胸には、拭いきれない一抹の不安が渦巻いた……。

これがリアル今池……!?
〆切からだいぶ過ぎ、焦るoukiの元に幾つかの写真と記事が突然送られてきた。
「ンフゥwwwこれが真の今池wwww写真もモザイクだらけじゃないですかwwwwですが、まァ、確かにこのような暗部をえぐってこそ、街のリアルな息遣いが伝わるというもの……それはわかります。わかりますがァ?しかしそれにしても、これをそのままデラデザインに載せるわけには……」
oukiは編集長就任以来、初めて小さく汗をかいた。しかし今回の特集は他でもない、あの今池である。
「……ンフフフフやってくれましたねェあまなっとうさん。私としたことが随分としてやられましたよォ?これは心中覚悟でベロニカさんに黙って掲載する他ありません。全く、これだから乱世はおも(フォン)」
それが以下の記録である。
おやおやおや?mojaさんナニをされているのですか?
mojaは妖精グループの切り込み隊長だ。尾張の狂犬と呼ばれ敵に回すとこれ以上厄介な男はいない。あまなっとうは妖精グループに彼を引き入れ、子飼いにすることで彼との関係をギリギリ保っていた。
「あまなっとうさん!今池といえばあそこですね。しっかり体験取材してきます!」
あまなっとうは取材をmojaに任せて、池下から移転してきたラーメン屋『一番星』で彼の帰りを待った。元々深夜営業のこのお店。やはり池下よりも眠らない街今池がよく似合う。昔ながらの乳白色スープの熊本ラーメンに年季が入ったガビガビの丼。移転したのにガビガビを変えないあたりにかえって今池進出へのこだわりが感じられる。
さあ、mojaが帰ってきた。反省会はこれからだ。




ブリヨンという女
なぜ二十歳半ばの美女ブリヨンが妖精グループの門を叩いたのか?当初はその理由が分からなかった。でもお互い杯を重ねるごとにあまなっとうはだんだんとその理由が分かってきた。
ブリヨンは美貌という皮を被ったおっさんである。
趣味はゴルフ、麻雀、サウナ、レトロ喫茶店巡り…。終電を超えても飲み続けるおっさんの生き様に憧れる変態である。
今宵も今池を代表するソシアルビルの一角であまなっとうと杯を重ね、そして歌い上げる。オハコは中森明菜、工藤静香、岡村孝子…。女の情念を歌い上げるおっさん心を心得たセレクト。
そして飲んで歌ってマレーシア人ママと熟睡する(寝るなって)。今日は楽天三木谷社長もご来店なのにそんなことはお構いなし。
スナックを出れば今池の〆はもちろん『味仙本店』
終電はとうに過ぎてタクシーで家路に着くブリヨン。たとえ終電に間に合っても駅を乗り過ごし結局タクシーに乗るのがブリヨンという女である。








今池では誰もが主役
長い人生における主役は自分自身である。だが人生はそんなに甘くはない。様々な辛い現実に打ちのめされ、長渕剛の歌よろしく「幸せのトンボよどこへ?」と嘆き、尾崎豊の歌よろしく「自分の存在が何なのかさえ分からずに震えている」日々だと思う。
でも今池には誰もが主役になれる、自称キャバクラがある。
何度行ってもあまなっとうには昭和のキャバレーにしか見えないが。
今宵も妖精グループからはmojaとブリヨン。ドン引きするくらい怪しい階段を登ると、巨大な体育館サイズのホールが一気に視界に広がる。そしてコーナーにはステージとマイク。そう、ここでは誰もが主役(歌姫)になれるのだ。
「あまなっとうさんお久しぶりです!今日もしっかり歌って下さい!」
久しぶりのあまなっとうの訪問に喜ぶ店長。気がつけば彼もずいぶん歳を取った。
「店長、いつものやつを頼む。」
「喜んで!」
そう。歌うは和田アキ子「あの鐘を鳴らすのはあなた」









極秘潜入取材!今池に人類の希望を見た
あまなっとうにとっても初めてのお店だった。
噂ではハッスルタイムや花◯音頭という謎のイベントがあると聞く。これは体力をつけていかないと返り討ちに遭うかもしれない…。訪問前にスタミナをつけるべく韓国料理『すもも』でニンニク塗れのキムチ、サムギョプサルを喰らう。
「あまなっとうさん、この後予定があって…残念ながら花◯にはお供できません。」
はこが弱音を吐く。これだから国立文系出身の陰キャは困る(お前もや)。貴公子たるゆえんか彼は今池とはなぜか相性が悪い。予定はナニかは察しがついたがそこはあえて聞かずにおく。
「妖精グループ去るもの追わず。なすくんとブリヨンで戦地へ向かう。」
なすくんは妖精グループきっての巨大ナスを持つ若頭。そしてブリヨンはわざわざ東京から。今池編はほぼ皆勤賞。やはり人格を疑わざる得ない。
ここからは潜入取材の関係上多くは書けない。訪問したのは名古屋唯一と言われるキャバレー。キャストもついて食べ放題飲み放題にも関わらず激安の居酒屋プライス。女性客はなんと無料。
一つ感動した話がある。シスター(ママ)が教えてくれた。
「このお店にお客さんがよく来るのは15日と1日。なぜだか分かる?15日は年金支給日で1日は生活保護の支給日。彼らは安い時間帯の1セットだけ僅かなお金を握りしめて来店してくれるの。」
ここには名古屋最後の砦とも言える社会インフラがあった。誰にでも人間らしい生活を送る権利はある。それが守られてこそ社会には安定と秩序が生まれる。なけなしのお金をはたいて異性と交流し長かった1ヶ月を労う。
「今池には希望がある。」あまなっとうは確かにそう感じた。









またどこかでお会いしましょう
編集を終えてoukiは思った。これが今池のリアル?そもそもこの話は現実のものなのか?そして妖精グループの正体とは?残念ながら、未だにそれを辿る術はない。全ては真夏の夜の夢だったのかもしれない。
それでも分かる。あまなっとうは必ずまた戻ってくる。デラデザインが名古屋の街を描き続ける限り、彼はまた戻ってくる。
そしてoukiは最後にこう思った。
「戻る戻らない以前に、これ出したら廃刊でしょォ…」
※この話は9割がフィクションです。登場人物も許可なく無断掲載させていただいております。文責は全てouki編集長に押し付けます。