伝説の超ナゴヤ人に訊く

伝説の超ナゴヤ人に訊く【名東区本郷】地域に合わせて変わり続ける老舗のお米屋さん『オコメコウボウ』店主 鈴木聡平さん・寿美さん

地元の住み心地は、地元の主に訊くのが一番!穏やかな心を持ちながら、激しい地元愛によって目覚めた名古屋最強の伝承者。それが〝超ナゴヤ人〟だ!
『伝説の超ナゴヤ人に訊く』第8回は【名東区本郷】です。

『オコメコウボウ』店主 鈴木聡平さん・寿美さん

今回お話を伺ったのは、以前本郷二丁目にあった老舗のお米屋さんが移転して新装オープンした『オコメコウボウ』の鈴木さんご夫妻。

テイクアウトのおにぎりも扱っています。

昔からある老舗のお米屋さん

ー私のママ友のお嬢さんが『オコメコウボウ』のおにぎりの大ファンなんです。小学2年生の女の子が「コンビニのおにぎりとは全然違うの!」と力説してくれて、今回取材を依頼することにしました。お客様はやはり地元の方が多いのでしょうか?

聡平さん:そういうお声が一番嬉しいですね!

どうしても大人は値段とイメージで判断してしまいますが、お子さんの舌は正直で忖度がないですからね(笑)

うちの店のお客様は名東区の人ばかりと思いきや、長久手や尾張旭、千種区からも来てくださいます。もちろん、転勤でこの辺りに引っ越してきた方もたくさん来てくださいますし、近所のお店に来た方が「なんだろう?」と覗いてくださることもありますね。

寿美さん:今はスーパーでもお米が買えますし、ネットでポチッとすれば自宅まで届けてくれる時代。それなのにわざわざ「『オコメコウボウ』のお米が美味しいから」と足を運んでくださるお客様には、感謝しかありません。

ーご主人はずっと本郷にお住まいということですが、代々お米屋さんを経営されているのでしょうか?

聡平さん:そうですね。もともとは祖父が大須で米屋を営んでいて、地下鉄東山線が開通したときに父が名東区に移転してきました。その後3代目の私が跡を継いで10年ほどになります。

以前は本郷二丁目にお店があって、その上に自宅がありました。昔ながらのスタイルの家族経営のお米屋さんですね。

ー子供の頃からお米屋さんを継ぐことを決めておられたのでしょうか?

聡平さん:実は子供の頃から「お前は3代目だよ」とか「継いでくれよ」と言われて育ったわけではないんです。だから、初めから自分が継ぐんだという明確な意識まではありませんでした。

ただ、「お米屋さん」という商売に育ててもらったという思いはずっとありましたね。
学校で学ぶことができたのも、就職できたのも、全て店のおかげだと思っています。

大学を卒業してから一旦別の仕事に就職してサラリーマンをやっていたんですが、就職して何年か経って父から改めて「お前が継ぐ気がないのなら商売を畳むつもりだ」という話をされたんです。

「子供の頃から当たり前にあった風景が自分が継がないと消えてしまう」ということに気づいて、急に心が動いたというか…
私は長男ですし、恩に報いたいという気持ちが自然と沸きました。

私が継いで何年か後に父が逝ってしまったので、今となってはあの時に決断してよかったなと思っています。

地域のお客様に合わせてお店をリニューアル

ー本郷店を移転されたのはちょうどコロナの時期だったそうですね。

聡平さん:そうですね。3年前の11月に古い店舗からこちらに移転しました。前の店舗は建物の老朽化が進んでいたので、リニューアルの計画は前々から進めていました。

元々本郷店でおむすびの販売を始めたあとに「米+おむすび」の業態で一社店を開店しました。その後、業態はそのままに店舗のイメージを一新することにしたんです。

寿美さん:緊急事態宣言の前後に計画を立てたのですが、ちょうど社会的にもテイクアウトのニーズがすごく高まっていた時期でしたね。

▲移転して新装オープンした本店
▲こだわりのお米を使った手作りのおにぎりが大人気
▲公園での絶品おにぎりランチは最高でした!写真は「さば梅おにぎり」

 

新店舗『オコメコウボウ』のコンセプトと嬉しい変化

ー新装オープンしたお店のコンセプトを教えてください。

聡平さん:どちらかというと、時代と共に変化していく地域の人たちに合わせて変化していこうというコンセプトでやっています。

以前のお店は、ジュースの箱に板を置いて米を置いているような、昔からある米屋でした。

ただ、時代と共にこの辺りの雰囲気は大きく変わって、今では転勤族のファミリーに人気の街に成長しました。すると、全国から意識の高い人たちが集まって来るわけですよね。私たちはそういうお客様に鍛えられて、もっと居心地のいいお店を目指したいと考えるようになりました。

移転に合わせて、店名も漢字の『お米工房』からカタカナの『オコメコウボウ』に変更。
外観は土壁っぽいというか、自然をイメージできるナチュラルな色合いにして、明るいカフェのような雰囲気を目指しました。このイメージは妻の意見なんです。

▲土壁のような質感の仕上げとナチュラルな色合いは奥様のこだわり


寿美さん:昔のお店の印象をお客様に伺うと、以前のお店は「敷居が高い」とか「入りづらい」「どうやって注文するのかわからない」というイメージがあったそうなんです。

実際、お客様は私たちの父親世代が中心でしたし、「昔ながらのお米屋さんは、いずれなくなってしまうのかな」という危機感すらありました。

新しいお店は「若い世代の人でも入りやすいお店づくり」を意識しています。

その甲斐もあって、同世代やもっと若い世代のお客様がすごく増えましたし、不安や危機感が払拭されて、自信に変わりました。

▲ご飯に関する幅広い知識を持った専門家「ごはんソムリエ」の鈴木聡平さん。私が実家(佐賀県)から送ってもらっているお米「さがびより」について「さがびよりは実は愛知がルーツなんだよ」と教えてくださいました。

ー移転後は人気商品に変化などはありましたか?

寿美さん:コロナ禍の影響もあるのかもしれませんが、最近は若い人にも健康志向の方が増えている気がします。

飲食店さんとのお取引もありますが、最近は玄米や雑穀米を選べるお店が増えてきましたよね。おしゃれなカフェのオーナーさんが十穀米や五穀米、黒米などを一緒に購入されることもあります。

▲雑穀やお煎餅など、お米以外のラインナップも豊富
▲健康志向の女性や若い世代を中心に人気の十穀米・五穀米


聡平さん:うちの店では20年くらい前からお客様の好みの精米度合いを選べるようにしています。玄米は健康にいいけどハードルが高いという人も、「分づき米」なら始めやすいですよね。
(分づき米:栄養豊富な「ぬか」と胚芽をあえて少し残して精米したお米。)
だいたい七分づきのお米を3週間ほど食べていただくと、自然とお腹の調子が良くなるんですよ。

▲手書きの紹介文にこだわりが見られます。健康意識の高い人は好みの精米度合いで注文できるのも魅力。


寿美さん:これまではそういうものを選ぶのは健康意識の高い女性のお客様が多かったんですが、今では、女性だけでなく男性にも玄米や分づき米を選ぶ方が増えてきました。

「前は旦那さんは白米じゃないとダメだったけど、今では家族みんなで分づき米を食べてるよ」と言ってくれる方もいます。

そういうお客様との出会いがあったり、声が聞けるのも、お店をリニューアルしてよかったと思うところですね。

ー今後の経営方針のようなものがあれば教えてください。

聡平さん:私たちにはテレビに出るようなかっこいい経営戦略があるわけじゃないんです。
ただ、長年地元に住んで街の変化を肌で感じてきて、シンプルに「みんなが入りやすい店にしたい」という思いでやっています。

夫婦でよく話しているのは「名古屋で最後の米屋になろう」ということですね。

▲ブランドごとに六角形の米櫃がハニカム状に配置されている


めずらしいオリジナルの商売ができる訳ではないけど、最後の1件の米屋になったときに、それが自分達のオリジナルになるんじゃないかと思っています。

ベースにあるのは「みんなにお米を食べてもらいたい」という思い。
そして、「お米の専門店でお米を買う」という文化を守りたい。

そのためにおにぎりを販売したり、十穀米や五穀米を提案したりしています。
基本を大事に、そこからズレないようにしたいですね。

本郷について

ー子供の頃から住んでこられた「本郷」という街の印象を教えてください。

古くから住む人と新しく来る人がうまく混在する不思議な町

聡平さん:名東区の駅は4つありますが、「本郷」駅はどちらかというと住宅地という側面が強くて、元々お店が多い街ではないんですよね。

私の父がこちらに店を移転してきたのは40年前に地下鉄通ったばかりの頃だったそうです。「上社」〜「藤が丘」の大規模な宅地造成が始まって、その第一次募集のころに引っ越してきたのが父の世代。その頃は田んぼや空き地だらけだったそうです。私の子供の頃にも、空き地がたくさんありましたね。

今でも元々この辺りで農業をやっていた方がいらっしゃいます。畑をやっておられたりね。そこへ父のような「新規入植者」が入ってきたわけですから、そういう意味では、私も「新参者」です。

今は元々農業をやっておられた方も高齢になって徐々に土地を地元を離れられて、その土地に新しく綺麗なお家が建ちはじめている、という感じです。
駅前にもマンションが増えましたし、名東区は転勤族の方に人気ということもあって、定期的に新しい人が入ってくるようになりました。

転勤でこの辺りに引っ越してきて、この町が気に入って家を建てたという人も結構いるみたいです。交通の便もいいし、住環境もいいし、教育環境は充実してるし、ほどよく住みやすいからでしょうね。

古くからこの辺りで農業を営んできた人たち、私の家族のように大規模宅地造成で引っ越してきた人たち、名古屋に駐在するタイミングでこの街を選んでくれた人たちがうまく混在して、融合しているのが面白いところだと思います。

田舎の雰囲気は残しつつ、大きな公園もあって、ほどよく小洒落ているような。

▲田舎の雰囲気も残しつつ、ほどよく小洒落たお店もある閑静な住宅地に成長


今も地元志向のお店が多いものの、結果的には「藤が丘よりちょっと落ち着いた雰囲気のお店がいいな」というときに、この辺りの隠れ家的なお店が選ばれている気もします。

近所のお店ではおしゃれなママさんたちの姿をよく見ますし、センスのいい方に選ばれているのかなと。
質の高いお店が増えて、どんどん素敵な街になりつつありますが、その雰囲気を作っているのは新しく引っ越して来られた方々だと思います。

ー子育て環境としてはどのような印象をお持ちですか?

寿美さん:転勤族の方が多い街なので、子供達がすごく柔軟だなぁと思います。転校生が毎年入れ替わることが当たり前の環境に慣れているので、すぐに友達になりますよ。

毎年何人かはさよならしなきゃいけないのは悲しいですが、また新しく来てくれる友達がたくさんいるので、子供にとってもいい環境なのかなと思います。新しい風が吹くというか。

引っ越してくる方は「うちの子、学校に馴染めるかしら」と不安になると思うんですけど、この地域に関しては本当にそういう心配はいらないと思いますね。

学校の雰囲気もとてもいいし、みんなとすぐに仲良くなれる力があるのは親としても心強いなと思います。

おすすめスポット

ー最後に、ご近所でおすすめの素敵なスポットやお店があれば教えてください。

『VELOWORKS』『STEPWORKS』

1つ目は『VELOWORKS』さんと『STEPWORKS』さん。
1階がご主人が経営する自転車屋さんで、2階が奥さんが経営するバレエ教室なんですよ。

▲自転車屋さんの『VELOWORKS』とバレエ教室の『STEPWORKS』


ご主人は昔「日本一マウンテンバイクを売った」
という偉業の持ち主で、日間賀島でサイクリング大会の企画をしたりされていました。バレエ教室も市内に複数の教室がある評判の教室だそうですよ。

 

凛花

2つ目は、お花屋さんの『凛花』さんですね。

▲センスの良さで評判の花屋さん

おしゃれな人がいつも買いに来ますし、夕方にはお花がなくなってしまうくらい評判です。
花束のセンスがいいのはもちろんですが、お花の持ちがいいんですよ。少しずつ茎を切って器を変えながら生けてあげると、1ヶ月くらい持ちます。お花があると生活に潤いが出るし、いいですよ。

タルティーヌ

3つ目は、『タルティーヌ』さんです。

▲素材の味わいを活かした可愛いタルトが人気。フィナンシェなどの焼き菓子も。

ここのオーナーさんが作るタルトは、センスがいいんです。
見た目も可愛いし、本当に美味しい。キッシュもおすすめです。
キッシュといえば駅近のエーテル (ether)さんも有名ですが、タルトなら『タルティーヌ』さんを推したいですね。

編集後記

どんな小さなお店でも、商売には必ず経営戦略があります。

時代や市況を見定めることも重要ですが、一番大切なことは、
「お客様の目を見て感じる」ことだと気付かされました。

『オコメコウボウ』の鈴木さんご夫妻のお話には、お店を切り盛りしていく中で得たものが詰まっています。
お客様の目を見て、街の変化を直接肌で感じてこられたからこそ、自然と湧き出る説得力がありました。

この物語は、単に昔からあったお米屋さんがリニューアルしておしゃれになったというだけではありません。
「お店に育ててもらった恩に報いたい」という思いからスタートした物語が、街の人と一緒に成長し、街を形造るかけがえのないピースになったのだと思いました。

「本郷」駅の周辺には、のんびりピクニックしたくなるような公園がいくつかあります。
ランチボックスを買って、青空の下でおにぎりを大きく頬張ったら、最高の1日になりました。

▲「本郷公園」のベンチでおにぎりランチ。唐揚げ3個とだし巻き半切れとセットになったランチボックスは680円〜。この日はさば梅&牛玉のおにぎりをセレクトしました。美味しかった〜〜〜〜〜っ!

『オコメコウボウ』店舗概要

住所:名古屋市名東区藤森2-287
TEL:052-774-0781
開店時間:9:30~17:30
定休日:不定休

ABOUT ME
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veronica
名古屋在住の不動産ライター。方向音痴の宅建士。大学卒業後不動産仲介営業を経験し、結婚で名古屋に転居。現在はポータルサイトで不動産コラムの執筆や企画などを中心に活動中。自称和装が似合うマダム。高校生と小学生のママで、星野源が好きです。