地元の住み心地は、地元の主に訊くのが一番!穏やかな心を持ちながら、激しい地元愛によって目覚めた名古屋最強の伝承者。それが〝超ナゴヤ人〟だ!
『伝説の超ナゴヤ人に訊く』第7回は【千種区昭和区名古屋大学】です。
ペルシャ絨毯専門店『ペルシャギャラリー』店主 アジ・アリさん
今回訪れたのは、並木道が美しい山手グリーンロード沿いで、1999年からペルシャ絨毯・キリム・ギャッベの専門店『ペルシャギャラリー』。
イラン出身の店主アジ・アリさんとそのファミリーにお話を伺いました。
山手通で20年以上ペルシャ絨毯専門店を営業
ーこちらのお店は1999年にオープンされているそうですが、アリさんが来日されたのはそれよりも前ですか?
アリさん:私は1991年くらいに来日していて、日本で妻と出会って結婚しました。
妻の実家が近いので、結婚してからずっと名古屋に住んでいます。妻のお父さんが近所で「ハロキ」というハンバーグ屋さんの支店を経営していたんです。(本店は中川区)
妻がそのお店を手伝っていた時にこの街に住み始めて、お店の隣でたまたま空き物件が出たので、このペルシャ絨毯の商売を始めました。
最初はどんな商売も大変ですが、徐々にお客様が増えました。
近所の人も多いですが、今では名古屋だけじゃなく全国からお客様が来てくれます。
ペルシャ絨毯の魅力を一人でも多くの人に伝えたい
ーペルシャ絨毯というと高級住宅地の豪華なお家にあるというイメージですが、小さいものやアンティークだとお手頃なものもあるのですね。ペルシャ絨毯の魅力を教えてください。
アリさん:ペルシャ絨毯というのは、イラン国内で製作された手織の絨毯のことです。
全て自然素材で手染めした糸を使って、手織りされています。シルク織の何百万という物を想像する人も多いですが、ウールを使った丈夫なものや、ウールとシルクのミックスのもの、平織のキリム、分厚いウールのギャッべも全て『ペルシャ絨毯』なんです。
シルクのペルシャ絨毯は、宝石のような光沢と、繊細で美しい柄が特徴。
ウールのものはは汚れにくくて丈夫です。キリムは平織の手織物で、薄手なので比較的手頃な価格。自宅で洗えるので使いやすいですね。
ギャッベはイラン南西部に住む遊牧民が日常生活に使う『敷布団』として織られていたものです。
シンプルなデザインのものも多く、モダンな家のインテリアにもマッチするので若い人にも人気があります。ギャッベはこの10年くらいで人気になってきましたが、うちはオープン時から扱っています。
本物の手織ギャッベは冬はあたたかく、夏はサラリとしているのが魅力です。あとは、アンティークや古いものも扱っています。
本物を扱うこと・適正価格にこだわること
ー模様が非常に繊細で、モスクの柄のようにに複雑というイメージがあります。織物の目利きは難しいのではないですか?
アリさん:そうですね、アラベスク模様などは非常に複雑で美しい柄です。
一つ一つの模様にペルシャ絨毯ならではの意味があるんですよ。
糸杉や羊、ヤギ、魚、ライオンなどがモチーフになっています。
ギャッベの柄も、一見シンプルなデザインですが、1つ1つの模様に意味があります。ただ、ペルシャ絨毯の悲しいところは、巷にコピー品や偽物がたくさんあるところ。
インド製・パキスタン製・中国製等のコピー品や、化学繊維を使ったもの、機械織の商品があちこちで売られています。
そういうものは品質も良くない。本物であれば洗えるし、20年前でも50年前の商品でもきちんと修理することができる。
私はテヘラン(イランの首都)に輸出のための専門商社を作って、そこから輸入しているので、責任持って『本物』を仕入れています。
現地のスタッフも育てましたが、自分で直接買い付けることもあります。私の親は田舎で羊を飼いながらウールの糸を紡いで、山からとってきた植物で糸を染めて絨毯を作っていました。子供の頃からその様子を見てきたからこそ、触っただけで『本物』かどうかがわかります。
ーペルシャ絨毯というと何百万もする『高級品』というイメージがあって、少し敷居が高いイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。
アリさん:確かに、ペルシャ絨毯の値段は、あってないようなもの。
うちが店頭で出している値段と、一般的に百貨店で扱っている商品では全く値段が違いますね。
同じ商品でも150万円以上違うこともあるんですよ。
0がいくつもついています。もちろん百貨店の方が高い。うちの店では、テヘランで私や現地のスタッフが直接買い付けた商品を販売しています。
家族経営だから、利益も家族や数人のスタッフが食べていける分で良い。だから「本物を扱うこと」と「適正価格であること」にこだわっています。
百貨店や一般的な家具屋さんの場合はそうはいきません。知識や経験があれば適正な価格で仕入れることもできるけど、百貨店のバイヤーが私のようにテヘランで買い付けて来るということはないですよね?
当然、そこには中間業者の利益が上乗せされているのです。
加えて、従業員がたくさんいるからさらに利益を上乗せしないといけない。百貨店並みの価格で販売することもできますが、妻が絶対にしたくないと言いました。
ー長く使う一生物であることを考えると、意外とコストパフォーマンスが高いんですね。あえて高値をつけない販売スタイルにはこだわりがあるのでしょうか。
美和さん:こだわりというか、そういう売り方ができないという方が正しいですね。
ペルシャ絨毯の展示会に見に行くと、まずローンありきで販売されることが多いように思います。
うちはローンを組んで買っていただくことということがほとんどないんです。
分割で買う方も、1年で数人いるかどうか。一応信販会社のローンも扱ってはいますが、どうしても最初から「ローン使えますよ」という売り方が性に合わなくて、できません。
もう少し利用があると信販会社さんにも顔が立つんですが、性分なのでしょうがないですね(笑)梨納さん:生活で使うものだから、無理して頑張って買うよりも、自分のタイミングで買って欲しいよね。
アリさん:私がいつもお客様に言うのは、「いつ来ていただいても大丈夫」と言うこと。「これしかない」「今買わないとなくなりますよ」とは絶対に言わない。
常にたくさんの商品を扱ってるし、自信を持っていいものをセレクトしている。
だから急がなくて大丈夫。一生物だからこそ、自分が本当に一番欲しいと思ったタイミングで手に入れて欲しい。逆に、お客さまが「これだ!これしかない!」と思った商品でも、引っ越しまで期間があって持って帰れないこともあって、お引っ越しまでの期間の保管にも対応しています。
ペルシャ絨毯は高級品!敷居が高い!というイメージもありますが、ペルシャ更紗は750円〜、ギャッベのチェアマットサイズは7000円〜、誰でも気軽に買えるものもある。
どんな方でもお客様です。実は、うちのアルバイトスタッフも、お金を貯めて自腹で買っています。
スタッフは他のお店で値段を調べるから、いかにいい物を安く売ってるかよく知っているのです。一生物ですから気分でコロコロ買い替えるようなものではないけど、お金持ちしか買えないようなものにしてしまうのは間違いです。儲けるよりも、一人でも多くの人にペルシャ絨毯の素晴らしさに触れてもらいたい。
クリーニングとメンテナンスにも対応(シャンボール店)
ー最近オープンしたシャンボール店では、クリーニングやメンテナンスも対応もされているそうですね。
アリさん:はい。修理を受けたり、すこしサイズの大きい商品を展示しています。
ペルシャ絨毯は一生物ですよね。
安い買い物じゃないからこそ、メンテナンスにもちゃんと対応したい。穴が空いていたり、ビリビリに破れていたりしても大丈夫。
フサが少なくなったり、取れたりしたものも修理できます。
洗浄は通常7〜10年に1回程度。汚れやシミ、匂いが気になる場合はいつでもできます。シルクの糸もいろんな色を取り揃えているので、あらゆる柄に対応しています。
ウールの毛糸は細いものから太いものまで色々揃えているし、色を作ることもできる。
瓶の中に植物が入っていますが、あれは糸を染めるためのものなんです。シルク糸などの高級な材料でも、きちんと揃えているからこそ、どんなものでも対応できるのです。
うちのお店で買ったものじゃなくても、ペルシャ絨毯ならクリーニングやメンテナンスに対応しています。実家にあった古い絨毯を持ってくる方もいますよ。ただ、機械織などの製品は修理対応できません。ゴシゴシ洗って破れたりするリスクがあるのでね。
修理に持ち込まれたものを「これはペルシャ絨毯じゃない」とお伝えすることもあります。今の修理職人は来日して1ヶ月半くらいです。彼もこの街を気に入っています。
今は可児市に修理や洗浄の工場を設けています。洗浄のための機械を注文しています。
どうやって洗うのかを見たいという方に作業の様子を見せられるようにしたい。
その方が安心できるでしょ?全国的にも、クリーニングやメンテナンスまでやっているお店は少ないと思います。
家に敷くものだからこそ『家族経営』が活きる
ーいまどき珍しいタイプの家族経営ですよね。娘さんは大学院生ということですが、結構手伝っていらっしゃるのですか?
梨納さん:結構手伝っているつもりですね(笑)
私はInstagramやYouTubeで母と一緒にペルシャ絨毯の魅力を発信しています。父は気分屋だから10本に1本とか(笑)この2つは重要な集客ツールに成長していて、最近は地元だけでなく県外のお客様がわざわざ足を運んでくださることが増えました。
ー経営においても、ご家族の意見を大事にされているんですね。
アリさん:私がここまでやってこれたのは全て妻のおかげだと思ってます。
どんな商売も大変ですが、夫婦二人三脚だから楽しくできている。妻のお客様への対応はとても丁寧で、思いやりがあって素晴らしいと思います。
妻の意見は全て正しい。子供2人を育て上げて、とても素晴らしい女性。
だから、私は常に妻の意見に従うようにしています。娘が手伝ってくれるようになって、InstagramやYoutubeのおかげで全国にお客様が広がったことも大きい。
妻や娘と一緒にイランまで絨毯の買付に行くこともあります。
ーオープンでフレンドリーなアリさんの人柄はとても魅力的ですね。会話が絶えないご家族で、お店の中にもハッピーなオーラが流れていますよね。
アリさん:確かにすぐ声かけるし、すぐに仲良くなります。
食べることと、おしゃべりすることが生きがいですからね(笑)梨納さん:もうほんとにしゃべりすぎです(笑)
イランの人はみなさんおしゃべり好きですが、その中でも特に父はおしゃべりですね。アリさん:一番大変なのは妻です。私の話を聞いて、家族の話も聞いて、お店でもお客様に接客して…
だから妻がボスです。娘はもう一人のボス。私は外国人労働者(笑)梨納さん:私と父のやりとりはお客さまからも「親子漫才」って言われてます(笑)
ただ、ペルシャ絨毯は家の中に敷くものなので、家族的な和気藹々とした雰囲気の中で選んでいただける方がいいのかも?と思っています。
「名古屋大学」駅周辺の住み心地
緑が多く、グローバルな町
ーこの辺りの住み心地はいかがですか?
アリさん:私たちもお店をやる前からこの街に住んでいますが、緑が多くて気持ちが良いし、本当に住みやすいです。
街のど真ん中に比べるとパチンコとかガヤガヤしたお店もないし、変な人もいない。住んでいる人はみんないい人です。美和さん:それはとても強く感じますね。
学校関係で保護者同士お友達になる方も本当に素敵な方ばかり。
学ばせていただける方やお手本にさせていただける方が多いという印象です。上品な人が多いというだけでなく、立ち居振る舞いもそいうだし、皆さん子育てや社会のことなどいろんなことにしっかりとした考えをお持ちで、常に勉強させてもらっています。
私は、このお店を通じてお客様やお友達に人間としても育ててもらっています。
ー名古屋大学があることで、この辺りはグローバルなイメージがあります。お友達でも海外の方は多いですか?
梨納さん:私はこの街で生まれ育っていて滝川小の出身なんですが、登校分団は半分が外国人でしたね。海外の人も住みやすい街なんだと思います。
美和さん:それは、最初にここに引っ越してきた時にも強く感じました。周りに外国人が多いので、夫も最初から全く違和感なく街に溶け込めています。
名古屋大学や南山大学が近いので昔から外国人は多い印象。アリさん:お客様の話を聞くと、留学生がマスター(修士課程)やドクター(博士課程)を取った後もここに残っている人は多いですね。住みやすいから帰りたくなくなるみたい。結婚したり、そのまま日本で就職したりしてね。
ー私もこの山手グリーンロードの雰囲気が大好きです。名城線が通ってから『高級住宅地』という印象がより強くなっている気がしますが、いかがでしょうか?
アリさん:おっしゃるように、駅ができてからとても便利になりました。土地の値段もどんどん上がっていますよね。
古いマンションでも全然値段が下がらないし、すぐ売れる。ただ、私たちにとってこれ以上の立地はどこにもないので売れません(笑)
私が思うこのエリアの弱点は、お店が少ないということです。
名古屋大学と南山大学にかなり土地を取られてるので、学生がこんなにたくさんいるのにもったいない。
ブティックとかインテリアショップとか、レストランとかケーキ屋さん、若い人向けのお店がもっと増えて欲しいと思いますね。商売をしていくにはちょっと寂しいね。美和さん:うーん。私はこれくらいでちょうどいいですね。
あまりお店が多いとガヤガヤして住みにくくなるし、通りに少しお店があって、一歩奥に入ったらすごく静かな今の環境はベストだと思います。
梨納さん:私もここがいい。パパはわかってない(笑)
一生物の絨毯はゆっくりじっくり時間をかけて選ぶものだから、落ち着いた雰囲気で選んで欲しいです。父が生まれ育った国はものすごく人口密度がすごく高い国。マーケットもめちゃくちゃ混雑しているのでちょっと感覚が違うのかもしれません。
だから父にとってはここは相当落ち着いてる街なんだと思います。昨日も大阪からお客様がいらっしゃったのですが、遠方からのお客様もリラックスしてゆっくり時間を楽しみながら選んでもらっています。
名駅の高島屋9階にある東急ハンズにもお店があるのですが、そこでペルシャ絨毯に魅力に惹かれた方がこちらのお店に来てくださることもあります。
ここだと本当に一人ずつしっかり時間をかけて接客できますからね。
アリさん:このように、妻と娘が私のボスです。(笑)
冗談抜きで、この街の人や、お客様からも、言葉使いや態度、とても学ばせてもらっています。本当に、この街の人はみんな「平和」という感じだね。
お客様に育てていただいています。
編集後記
「山手通りにあるペルシャ絨毯専門店」といえば、高級住宅地にある高級品のお店というイメージかもしれません。
しかし、実際に取材に訪れてみると、そこには和気藹々としたあたたかい家族の姿がありました。アリさんのオープンで朗らかな人柄は、出会う人みんなを幸せにしてしまうパワーがあります。
多くの手織のペルシャ絨毯は、今でも家族経営で作られているそう。
生産者家族の思いがそのままお店にも流れているようで、じんわりと幸せな気持ちになりました。
そんな空間で、ゆっくりじっくり悩んで選んだ一枚の絨毯は、家族の絆をより一層強めてくれるかもしれません。
また、心に響いたのは「お客様に育てていただいている」というアリさんファミリーの謙虚な姿勢。
日本人が忘れかけているものを思い出させてくれました。
梨納さんがプロデュースするInstagram・Youtubeも非常に見応えがあるので、ぜひチェックしてみてくださいね。
『ペルシャギャラリー』店舗概要
住所:名古屋市昭和区山手通一丁目11 メゾンド山手1F
TEL:052-836-1142
OPEN:AM11:00〜PM8:00
定休日:水曜日
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